栃木県 大岩山多門院最勝寺①_ 文化財を守り樹木と共存して景観をつくるアーボリカルチャー
海外では樹木栽培、木材生産業、公園の設計等を含む樹木管理、治癒行為などを一体的に表す「アーボリカルチャー(Arboriculture)」という仕事が存在します。アーボリ(Arbori)は樹木、カルチャー(Culture)は文化・教養・栽培であり、樹木の文化・教養、樹木栽培などと訳され、簡単に表現すると「樹木学」のこと。最近、林業界では、高木を倒さず伐採する技術の「特殊伐採」が注目されています。アーボリカルチャーは高木の上に登って作業するため、日本の特殊伐採と同じように扱われているようです。しかし、アーボリカルチャーは、特殊伐採という狭い意味ではなく、樹木と共存する社会をめざして、言ってみれば景観づくりに通じる社会的意義を持つ、欧米生まれの技術です。
栃木県足利市の霊山「大岩山」は、山岳信仰の対象となり、修験道の一大修行場として栄えたと言われています。そこには毘沙門天像が安置されている大岩山毘沙門天こと多聞院最勝寺があります。このお寺では12月31日の大晦日の晩から元日の未明にかけて、『悪口(あくたい)まつり』が行われることで有名です。これは、参道で行きかう人に『ばかやろー』と大声で悪口をかけあう奇祭です。
境内には大岩山毘沙門天本堂、山門、石段などの足利市指定文化財が立ち並び、大岩山石造層塔は栃木県指定有形文化財(考古資料)として登録されています。また、大岩山一帯は県内でも数少ない暖地性植物自生地として重要な地域になり、本堂東側のスギとともに足利市指定の天然記念物として登録されています。
大岩山多門院最勝寺の縁起によれば、行基上人が天平十七年(745年)に大岩山毘沙門天を開山したのち、聖武天皇より、本堂、経堂、山門、鐘楼、三重塔、十二坊の諸堂を賜るとともに、「大岩山多聞院最勝寺」という山号を賜りました。毘沙門天境内、本堂にいたる石段(文化財)の下に、山門はあります。その山門のそばにある、雷に打たれて枯れ、シロアリ等の害によって腐敗した杉の木の処置について、Q-GARDENにご相談いただきました。
アーボリカルチャーは、ただ単に木を切って使うという行為だけの知識ではなく、放置しておくと危険とされる木は伐採し、残すことのできる木は残す、という考えに基づいています。Q-GARDENは、この考えを取り入れ、放置しておくと危険と判断しました。
「大岩山」は、歴史的に山岳信仰の対象となった山であり、大岩山毘沙門天(多聞院最勝寺)は『京都の鞍馬山』『奈良の信貴山』に並ぶ日本三大毘沙門天の一つです。そのような神聖な場所に生息していた木の資源を、お寺で使用するお札などとして、神事に再び役立てたいというお客様のお考えがありました。このように、適切に資源を活用することも、アーボリカルチャーの考えでもあります。
根元からばっさり倒すと、貴重な文化財などに被害が出る可能性か高くなります。これらの周りの文化財に被害を与えることなく伐採するには、アーボリストが樹上に登って上から少しずつ枝、梢などを上から順番に伐り、ロープを使って伐ったものをゆっくりと下ろします。今回は、再利用目的の都合で、樹木を切る際に、大き目の丸太にカットすることになったため、クレーンで吊り上げて安全に地面に下ろすことにしました。ひとつの丸太は最大約1tもの重量になります。木の上で伐採した丸太を順番にクレーンで着実に下ろし、山門などの文化財に危害を与えることなく無事に作業は終了しました。