栃木県 大岩山多門院最勝寺②_アーボリストの仕事

 樹木に関する高い知識と豊富な経験を持ち、安全・確実な方法で樹木への処置を行うことができる専門家を「アーボリスト」と呼んでいます。彼らは、帆船やヨットの帆走技術などから生まれたロープテクニックを発展させ、登山などで用いられる道具と技から樹木へのクライミング技術を生み出し、その技術を安全な木登りや樹上作業にまで発展させました。このロープクライミングにより、対象の木のみをピンポイントで伐採し、ケアすることができます。

 大岩山多門院最勝寺様より、2か所の古い樹木についてご相談を受けました。1箇所は文化財が多く建立されている山門エリアの樹木と、本堂奥の樹木です。本堂奥の高木は、約樹齢130年ほど。虫に木の内部を食い荒らされており、雪や風でトイレの建物に倒れかかり、そのまま放置すると大変危険な状態です。Q-GARDENは、アーボリカルチャーの樹木管理の観点からも、危険を減らすために伐採を行うのが効果的と判断しました。

 

 しかし、本堂奥は、山門エリアの樹木と違い、周辺は森が広がり、樹木が生い茂っている場所での作業になります。このような狭小地では、システムを構築して慎重にピンポイントで吊り下ろし、集積を行います。これを「リギング」といいます。この技術を使えば、クレーン等の重機が入れないエリアでも、きめ細かい作業を行うことができます。今回の場合は、樹上で伐採し高い所から下すのではなく、左右の樹木にロープを張り、2点で吊ったところに、立ったまま地上に垂直に落とし、下から順番に幹に切れ込みを入れて、ロープで引き合いながらスライドします。絶妙なミラクルバランスを保って地上に落とすには、アーボリストの熟練した技が必要です。

 また、今回の事例のように、神社仏閣、住宅地などの樹木を伐採する場合、周りに森林や建物、電線等があり、根本から切り倒すことができない、また、伐ったものを下に落とすことでできない場合があります。それに応えられる技術、つまり、ロープで木を吊った状態で、立てたまま下からカットしていく技術や、倒す時も角度をみながら切れ込みを入れるなど、やはり熟練したスキルが必要です。

 日本で樹木を扱う職業は、主に「造園業」と「林業」です。造園業ではクレーンの入れない場所の高い木は剪定できないという悩みがあり、林業は木に登る技術には長けているけれども、多様な樹木の維持管理技術の知識に乏しいという問題がありました。そこで、樹木の知識に富み、木に登る技術を習得したアーボリストが日本でも必要になってきました。

 アーボリストは、樹木に関するスペシャリストで、海外ではガーデナーと並んで一般的に浸透しています。基本的には、高い木に登る特殊伐採と似ている部分があります。しかし、アーボリカルチャーは、高く育つ樹木を扱う技術全般であり、伐採だけではありません。種子から高木となる樹木の苗を育てたり、その後の生長を世話したり、時に剪定も行う。伐採はその一分野で、それが本筋ではありません。そして美しい樹形をつくるという意識やデザイン感覚も必要です。そこには、作業してから5年後10年後の樹木の姿を描く必要があります。その点では、ガーデナー的な世界観が必要なのです。

 Q-GARDENでは、オーガニックなガーデニングという仕事の一環として、どんな高木であっても、安全に、景観に配慮した剪定ができるということ。そして、むやみに重機を使わずに無駄な排出ガスを抑えることなどが、アーボリカルチャーを取り入れる意義があると考えています。

◆関連事例:WORKS「栃木県 大岩山多聞院最勝寺①」

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